いつもと同じ電車での帰り。でも今日は少し違った。
子供が乗っていた。その時間帯は普段小さい子など乗っていないのだが、今日は乗っていた。
列車は10分以上の遅れを取り戻そうと必死に走っている。乗客の多くも遅れの影響で寒空の中待たされた人が殆どだ。
そして終点である駅に到着すると皆揃って降りる準備をして、乗降口に集まる。私も同じだが位置の関係上なかなか立てず、ゆっくり子供を眺めていた。
と、その時だった。
親に手を引かれていた子供の手から何かが落ちたのだ。
子供はその小さい体を精一杯伸ばして落ちた物を拾おうとするが、母親は気付かずに引っ張っていく。
私は衝動的にその落ちた物を拾った。
そして近くにいた子供の肩を叩いて落し物を差し出した。
子供はきょとんとした顔だったが、母親はすぐに私の行動に気付いた。
「ありがとうございます。」
その後私は会釈をしたか、返事をしたのかわからない。口下手で何を言ったら良いかわからなかったのかも知れない。
だが私の心の中には清々しさが残っていた。
……寒い冬の小話でした。ちなみにこれは現実の話です。