久しぶりに出会ってしまった(悪い意味で)

 この日記を何回か読んでいる方、またはレビューを見たことがある方ならば分かると思いますが、私自身そんなに詳しい評論文が書けません。『素直に面白い・つまらない、ここが特にそうだった』程度ですが、まぁ大体の作品は面白い分類に入るのでさらに当てにならないかも知れません。

光秀曜変

光秀曜変

 (あくまで個人的な感想であることを頭に留めて下さい)
 今日読み終えたこの作品ですが、正直購入したことを後悔しました。大抵の作品は二度読みますが、読破した段階で「二度と読むものか!」と思えた作品に久しぶりに出会ってしまいました。

 『光秀曜変』、つまり明智光秀が主人公の作品なのですが、本能寺の変に至るまでの苦悩と葛藤、並びに天王山の戦いを描いています。物語は“おれ”の光秀視点と、明智家の家臣や関係する人物視点で交互しながら物語が進行していきます。あと特筆すべきは光秀が70近い年齢設定でしょうか。
 ただ、受け容れられないのが、言い方は悪いですが光秀がボケ老人として扱われている点。
 本能寺の変に至るまでの経緯に関しては諸説あり、作り手によって大きく違います。これが書き手の腕の見せ所、それぞれの解釈があって非常に面白いです。ですが、「信長がいるから自分が苦しんでいる、だから殺す」なんて理由で政変を起こすなんて考えられないことです(まぁ、これがボケてきた光秀の暴走と描いていますが……)
 『本能寺の変後の行動があまりに緩慢』『愛宕参拝して連歌を催した際に粽を剥かずに食べる』というエピソードもありますが、それにつけてもボケていた……とは到底考えられません。あの信長がボケ始めた光秀を安土に来る家康に対して饗応役を命じるとは思えないですし、何より家臣を有能・無能という点で選別する信長が頭の冴えが鈍りだした光秀を見抜けないはずがないです。
 それと愛妻に関する話も具体的な内容もなくただ恋しい程度に留めていたり、秀吉の懐刀が小六だったりと違和感を感じる点も多々ありました。

 実際にあったことを物語にするためには書き手の技術も必要です。ただ書いていったのでは史実を並べただけのつまらない話にしかなりません。ワクワクやドキドキも、読んだ後の充実感もない作品に、魅力なんか感じません。
 なんでしょうか、認知症老人の顛末を惨めな最期まで描いた、非常に後味の悪い作品とでも評しましょうか。元々この作者の著書は購入していませんでしたが、この作品でその印象がさらに強くなりました。
 最近は読み応えのある作品ばかりに出会っていたので、正直ガッカリです。